高知県が主催の在職者訓練「3Dプリンター基礎講習」を高知高等技術学校で受講して来ました。受講費用は基礎講習なので500円です。郵送されてきた振込用紙を使って期日までに銀行や郵便局で振り込んでおきます。
どういう内容なのか全くわからない状態でのぞみましたが、結果的には3Dプリンターの原理や方式、3D CADとの関係等、多少は予備知識を持って行ったので非常にわかりやすかったです。現状のほとんどの疑問は解決したと思います。
高知高等技術学校にある3Dプリンターは、ムトーエンジニアリングのMF-2000という機種で、私が勝手に想像していたよりもかなり大型な機種でした。
メーカーのHPでは製品カタログからは落ちてるみたいですが、情報としては過去の製品ページに残っているのでどんな機種かは見ていただけると思います。
この機種はダブルヘッドでサッカーボールの大きさ位がぎりぎり作れるかな、という位の大型モデリングにも対応できる機種です。定価45万円(税別)で販売されていた様です。
上部に黒いリールが二つセットされているのが見て取れると思いますが、ここに材料となるABS樹脂、PLAをセットしてヘッドのところまで下して来て装着します。ヘッドは材料(フィラメント)を熱で溶かして左右・上下に動きながらモデリングします。前後の動きは造形テーブルが受け持つのでヘッドは中央付近で動くことが多く、動きの無駄があまり生じない様に考えられています。
3D CADによるモデリングから、3Dプリンタで造形物として制作される流れとしては、ざっくりと下記の様になることを知りました。
- 3D CADで作成されたデータ(拡張子は*.STL、*.OBJ等)
- モデリングソフト(スライサー)によるGコードへの変換
- 3DプリンタにGコードデータを転送して造形物形成
手順2はデータ容量にもよりますが大した時間はかからない様です。今回はデモ的にサイコロのデータを使って変換したのですが一分位で終わったと思います。
一番大変なのは当然ながら手順1で、このデータが適当だと3Dプリンタで作った造形物はそれよりも良くなるはずがありません。CADの操作の習熟度にも関係しますし現段階の私には想像できない時間と労力がかかるだろうなという事しか分かりません。
最も興味のあった手順3は、品質と時間とコストを天秤にかけた勝負という感じです。品質を上げたければ時間はかかるし材料もたくさん使います。しかし品質うんぬんは置いておいても、3Dプリンターが目の前で動く様子を見るのは初めてだったので感動的でした。ただの樹脂の線が造形物として形成されていく様は圧巻です。
いよいよ3Dプリンター動作開始
まず、材料を溶かすヘッドと造形テーブル(造形物を載せて前後する台)をヒーターで温める必要があるので、データを転送してもしばらく待機状態です。パソコンの画面にヘッドとトレイの温度が表示されます。トレイの温度がなかなか上がりません。
しばらくして設定温度まで温まると自動的に動き出しました。意外な音にびっくりさせられると思います。冗談の様ななんとも言えない音を発しながら複雑に左右に動くヘッド、前後に動くトレイは初めて見る人なら驚くと思います。ミョインミョインというか表現できない音を奏でながら溶けた樹脂がニュルニュルと塗り重ねられていきます。白いABS樹脂を使っていたので、ホワイトチョコレート菓子でも製造しているかの様に見えます。
造形テーブルは熱で溶かした材料が溶けて乗る台になっていますが弾いていて付着しません。特殊な素材になっているのか質問するのを忘れましたが、100度以上の温度に熱せられて温度が下がらない様に工夫されているそうです。樹脂と樹脂がある程度溶けあう必要もあるんだと思います。温度設定が肝だと感じます。
座学の時点で説明を聞いていたのですが、樹脂を溶かした材料は、びっちりとプラスチック素材の様に充填させることも出来るそうですが、メッシュ状やハニカム状にして空洞を開けて材料や時間を節約することも出来ます。このモデリング方法(3Dプリントの方法)を決定するのがモデリングソフト(スライサー)による設定です。
モデリングソフトが3Dプリンターの道しるべ
端折ってしまいましたが、モデリングソフト(スライサー)の設定パラメータは非常に緻密で、速度や充填率やらの細かい値を設定できます。これらのパラメータを元に3Dデータを造形するプランが計算され、3Dプリンターの挙動1つずつの動作を決定する大切な計算をするのがモデリングソフトです。ここではじき出された動作設計書がダメだと仕上がりにも影響します。3Dプリンターそのものに興味を持っているならこの部分が一番気になると思います。生データには座標データなのか何なのかよくわからないですが、3Dプリンターへの動作指示が膨大な量記されていました。
3Dプリンターを制御するうえでの肝となるのがモデリングソフト(スライサー)というアプリです。一般的なプリンターで言えばプリンタードライバ&設定画 面みたいな感じでしょうか。3Dプリンタの場合は機種にもよるそうですがデータが転送されたら3Dプリンタが自律して造形物の制作動作をとる様です。
このプリント指示データをもとにヘッドが動いたりする訳ですが、造形物の大きさや構造によって、溶かした材料が固まる時間や重量が違うので、あまり動作を早く設定すると固まる前の流動体の状態の段階でヘッドから出てくる粘り気のある材料が造形物を引っ張ってしまうので形が歪んでしまうこともあるのだそうです。
考えてみれば、材料を溶かしてそれを塗り重ねていく仕組みなのですから、超精密な造形物が出来上がるわけではありません。
形成終了まで数分~数時間と、充填密度や速度によって幅がありますが、完璧な精度で作ることはできませんし、強度もばらつきがあったりして、3Dプリンターがあれば何でも作れるというものでは無いという事がよく分かりました。
3Dプリンターは多メーカーから多機種が存在する
3Dプリンターの動作原理が発明されたのは結構昔のことらしく、2009年に特許が切れた為に3Dプリンターの製造開発に取り組むメーカーが一気に増えて、ここ数年で家庭用が販売されるほどに普及して来たという歴史があるそうです。
構造自体は現物を見ればなるほどね、と思えるほどシンプルに作られているのでとんでもなく高精度な精密機器という印象はないのですが、これを考えた人は天才だなと思います。無の段階からアイディアを発想できる人は本当にすごいです。
多くの機種が色々な方式(アイディア)で考えだされているので、一言で3Dプリンターと言えない部分はあるのですが、一般人が思い描く3Dプリンターと言えば家庭でも使える機種(方式)である熱溶解積層法と呼ばれるものだと思います。そこそこのものをそこそこの精度で作れるというコスパが高い方式です。
インクジェット方式(溶融樹脂を紫外線で硬化)や光造形方式(溶融樹脂をレーザーで硬化)などもあり、造形物の精度は向上しますがコストが高くなる様です。当然ながら業務用になってしまうのでお目にかかれる機会は少ないと思われます。
いずれにしても3Dプリンターはそれぞれのメーカーが独自に設計&改良して製品化しているので、使う人にもそれら独自のノウハウをある程度身に着ける(試行錯誤する)必要があると思われます。癖やコツを理解してしまえば本来の性能を引っ張り出せると思いますし、逆に言えば買って来てすぐに性能を引き出すことは難しいと思われます。
3Dプリンターは買えないけど、3D CADでモデリングは得意だという人は、出力サービス(データを送って造形物を作ってもらう)もあるので、活用してみると便利だと思います。
3Dプリンタ出力サービス | 3Dプリンタの株式会社ムトーエンジニアリング
3Dプリンターを理解しながら3D CADを使いこなすスキル
3Dプリンターは機種それぞれにスペックがありますので、スペック以上のことを実現することはできません。しかし造形物の誤差(樹脂を溶かして作るので誤差は必ず生じる)を考慮したCADモデリングができる様になれば、3Dプリンターの性能をカバーできるのも道理です。
講師の説明によると、軸の寸法等に少し遊びを考慮してCADでデータを作っておけば、実際に組み合わせた部品同士を回転させたりすることも可能だという話でした。現在の3Dプリンターで本番向けの高精度な製品を作ることは現実的ではありませんが、モックアップ等を作って構造を視覚的に見せる用途にはかなり使えるという話でした。
このあたりの説明を聞いて思ったのは、やはり設計(3D CADによるモデリングデータ作り)スキルが要求されるという事でした。製品とは別に、3Dプリンタで作るための設計とでもいうのでしょうか、誤差を想定した設計ができないと期待した造形物を作り出すことはできないなと感じます。
3D CADは無料から有料、高額な高機能版まで多種多様
3D CADによるモデリングスキルが大半だという事が理解できたのですが、この世には3D CADと呼ばれるCADアプリが多数あるので、めまいがするほどくらくらします。高価で高機能なアプリを買っても絶対に使いこなせないし、基本機能すら使えないかもしれません。むしろシンプルなアプリの方が目的を達成できる可能性が高いとも言えます。
無料で使用できる3D CADも含めてリストアップ
- AutoCAD
- Autodesk 123D Design
- Autodesk 3D Inventor
- Autodesk Fusion 360
- Autodesk Shapeshifter
- Autodesk Mesh mixer
- SCULPTRIS
- SketchUp Make
- Creo Elements DirectModeling Express
- FreeCAD
- RS Design Spark Mechanical
- Dassault SOLIDWORKS
- Wings 3D
- Blender
3D CGアプリでも3Dプリンター用のデータを作れる様なので、世の中にはまだまだ沢山のアプリがあると思います。キリがないのでこれくらいにしておきますが、どのアプリを使うかは結構重要な問題(課題)です。
どのCADアプリを使うのがベストなのか?
3Dデータを作成するアプリの選択は、もちろん、目的として作りたいモデルのジャンルによると思います。精密な工作物のモックアップを作る目的なら、最終目的は工作物を製品化するレベルにあると思うので、最初からその精度で作れるアプリが必要でしょう。ミリ単位、ミクロン単位等の精度もCADによって違ってきます。
逆に言えば、芸術的な作品を目指しているなら、PCという仮想空間で画面で見ながら造形を作っていく訳ですから、寸法よりも感覚的なものの方が重要でしょう。そういう用途には精密な作図ができるアプリよりは、もっと感覚的な方法で作図できるCADアプリが向いているに決まっています。
3Dプリンターで作れるものはまだ限度がありますが(強度や精度面で)、アイディア次第で色々な用途が思いつくんじゃないかと思います。人によっては「そんなことに使う!」と言う様な斬新な発想をする人もいるかも知れません。
つまり、ベストと言える3D CADソフトは目的によるので人それぞれという事になります。いろいろリサーチしてみるしかなさそうです。
パソコンのスペック
3D CADを扱う関係上、そこそこ良い感じのスペックのPCが必要となりそうです。使う3D CADアプリにもよると思いますが、所謂ワークステーションと呼ばれる部類のPCが快適にモデリング作業を行う上で必要になると思います。
同学校のPCは3D CADが快適に動作するので、どれくらいのスペックなのか確認したいと考えて許可をいただきチェックさせていただきました。学校の備品は予算もあり数年間買い替え(更新)できないので頑張ってハイスペックなPCにしたとおっしゃってました。
- CPU:Core i7-4790 3.6GHz
- MEM:8GB
- GPU:Nvidia Quadro K2000D
- ストレージ:SSD
- OS:Windows 7 64bit
やっぱり結構いい感じのワークステーションですね。
3D CADにはこれ位のスペックほしくなると思います。うちのCore i7 870(第一世代)じゃさすがに3D CADは辛いだろうなぁ・・(涙
3Dプリンターの将来性
今後、コンピュータによるモデリングが、もっと敷居を下げてコンピュータに対する知識を持っていない人(子供や一般の女性など)でも手軽にイメージしたものをデータ化できる時代がくれば、3Dプリンターの活躍の場面はもっともっと広がると思います。
特に女性の場合、アクセサリーや小物を作ったりする人も多いと思いますが、基本的には手作りで全く同じものを作るのは難しいと思います。しかし3Dプリンターを使えば、多少の誤差はあるとしてもほぼ同じものを作れる訳ですから、それをベースにヤスリ等で修正して理想的な形に仕上げるというプチ量産も可能になると思います。
まだ一部のエンジニア系の人の道具に過ぎない3Dプリンターですが、今後もっともっと可能性を広げていくことができたら面白いツールになる事と思います。そういうニーズにも応えられるアプリや、ユーザーインターフェースが開発されることも期待したいです。
お約束ですが、自分家で使える家庭用3Dプリンターがほしくなりました。最近は家庭用とも言える小さな造形物用の3Dプリンターなら10万円以下で購入できるそうです。ちょっとしたアクセサリーやらオブジェやら作ってみたい気もします。
あとは壊れたプラスチック部品を作るために3Dプリンターを使ってラフを作り、パテを隙間から充填してがっちりしたものに仕上げて使うとかもありかな?と思っています。材料の特性やら接着剤の特性やらの知識も必要になりますけどね。
プラモデルを作ったりする人も本気でほしくなるでしょうねこれは・・
とか思ってもしやとYouTubeで検索してみたら、めちゃ活用している事例がたくさんあります。既に3Dプリンター職人みたいな人いっぱい居るみたいです。
Amazonでも沢山の3Dプリンタが販売されているのを見かけるとほんと買っちゃいたくなります。しかし私の場合はまずは3D CADが課題です。
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